タマリバ周辺生息日記@ 主に、ニコタマ

主に、サッカー(川崎フロンターレ、少年サッカー育成、審判)、子育て(長男7歳、次男2歳)、キャンプ、仕事(そろそろ変わる潮目かも)、について幅広く発信していきます。いわゆる37.5歳年代向けのブログを目指します。

[書評]ジョブ理論(原題「Competing Against Luck」)(クレイトン・M・クリステンセン他著)

イノベーションのジレンマ」の著者であるHBSのクリステンセン教授による新著(日本語版は2017年8月に初版出てました)。

イノベーションのジレンマ」では、既存産業をあるイノベーションがシンプルで使いやすく安価なプロダクトをもって転換させ最終的には当該産業を完全に再定義する現象を示す「破壊的イノベーション」理論として紹介していた。だが、これはどこに新しい市場を作るべきかを解説したわけではなく、それを可能にする理論として紹介されているのが「ジョブ理論」。

顧客は機能や価格を見て単にプロダクト/サービスを購入するわけではなく、顧客が遂げようとする進歩(顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼ぶ)を解決するために顧客は商品を「雇用」するというのが、「ジョブ理論」の中核。この理論を説明すると共に、いくつかのアメリカ企業のケースを紹介、また、本理論を組織としてどう取り込むかの概念方法論を解説しているのが本書の概要です。

 

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 作者: クレイトン M クリステンセン,タディホール,カレンディロン,デイビッド S ダンカン,依田光江
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/08/01
  • メディア: 単行本
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読もうとした目的・狙いはなんだったのか?

昨年10月にレビューをいくつか読んで購入はしていたのですが、途中まで読んで挫折していた本書。当時を思い起こすと、2017年6月頃に、それまではメンバーとして参画していた新規事業プロジェクトのプロマネを諸事情あって任され、それと前後して、同内容のビジネスをローンチしたスタートアップが突如現れたり、同業他社(しかも企業規模がより大きい競合)も追随したりして、精神的に少しナーバスな時期でした。当初描いていた事業計画を、競合と差別化するためにどのようにReviseしていくか連日議論していた記憶があります。そんな中で、我々のサービスを顧客が手にしてくれるにはどうしたらいいか、をもう少し戦略的かつ論理的に考えたい、と思っておそらく手に取ったのだと思います。

 

しかしなぜ途中で読むのに挫折してしまったのか、そこまでは思い出せません…アメリカのビジネス書によくある典型的な構成(論旨についての主張が繰り返される&アメリカ企業のケーススタディーがたくさん出てくる)に、忍耐力と知性がついていけなかったのかもしれません(苦笑)。そして今、次の会社へ移るまでの思考整理期間に読むべき書としては、ちょうど良いテーマと思い、再び読み返してみることにしました。

 

 

本書を一言で表すと。

この直前に読んだ「スタートアップ」と同様の主旨として、「消費者はもはや価格や機能だけではプロダクト/サービスを購入しない」世界になってきており、商品を開発するには、「スタートアップ」の場合には顧客を探してそして検証をせよ、というアプローチなのに対して、「ジョブ理論」ではその顧客の感情的側面・社会的側面にも着目して、片付けるべきジョブをどう捉えていくかの方法論へのアプローチを説いています。

上記の前提に依って立つ2つの書籍を同時期に選んで読んだのは、私自身が解を欲しがっているテーマが、今後の会社での事業開発職における仕事の進め方・ヒントと思ったからなのでしょうが、結果的に興味深い選び方をしていました。

 

2書に共通していますが、大企業におけるこれまでのような商品開発プロセスでは、的外れたアウトプットになるという警笛を鳴らしており、私もこれらのプロセスを身をもって体現・実現することで、大企業(メガベンチャー)でストレスを抱えていた、既存の進め方と消費者の購買メガニズムとのギャップを埋める仕事をしていきたいと感じた次第です。

 

 

章立て

序章 この本を「雇用」する理由

第1部 ジョブ理論の概要

第1章 ミルクシェイクのジレンマ

第2章 プロダクトではなく、プログレ

第3章 埋もれているジョブ

第2部 ジョブ理論の奥行きと可能性

第4章 ジョブ・ハンティング

第5章 顧客が言わないことを聞き取る

第6章 レジュメを書く

第3部 「片付けるべきジョブ」の組織

第7章 ジョブ中心の統合

第8章 ジョブから目を離さない

第9章 ジョブを中心とした組織

第10章 ジョブ理論のこれから

 

感じたこと・気づき

第1部「ジョブ理論の概要」より

第1章~第3章で構成される第1部においてはまず、ジョブ理論の定義と概要が説明されます。

 

「顧客はある特定の商品を購入するでのはなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。この「進歩」のことを、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」する」

 

というのがジョブ理論の中核です。

また、ジョブをとらえる時留意すべきこととして、

 

「ジョブは機能面だけでとらえることはできない。社会的および感情的側面も重要であり、こちらのほうが機能面より強く作用する場合もある。」 

 

ことに触れ、ジョブが本来持ちうる複雑さについて説いています。

 

具体的には本書で何度も取り上げられている、ミルクシェイクとサザンニューハンプシャー大学(SNHU)のケースだと、下記のようになります。

 

ミルクシェイク→朝の通勤客が片づけるべきジョブ=「仕事先までの長く退屈な運転を気を紛らわせたい。そして昼まで腹持ちよくさせるものがほしい」

ただ、夕方になると異なるジョブのためにミルクシェイクが雇用されもします。

つまり、父親の「子どもにいい顔をしてやさしい父親の気分を味わう」ジョブを解決するものが必要になるので、この要件を満たすには、朝のシェイクの半分のサイズにするなどの開発の方向性が新たに導き出されることになります。

 

SNHU→高校生にとって片付けたいジョブ=「初めて親元を離れて大人としての体験をしたい」である一方、オンライン学習プログラムを受講する社会人にとって片付けたいジョブは「将来のキャリアアップを目指し、家庭の生活水準を向上させるための勉強を、仕事と家庭を両立させながら実現したい」というものです。

 

ジョブ理論をレンズとして消費者や市場を見つめると、同様商品を売る他社を競合と見ることが狭小的な視野であることが分かります。ミルクシェイクの競合は単に味の異なるシェイクを提供する他社ではなく、前述のジョブを解決できるバナナやスニッカーズだったりします。加えて、SNHUの場合は、社会人として学び直しを「しない」、つまり「無消費」である市場との競争も視野に入れる必要があります。ただ、ここに気づくことで競争過多状態からのスタートでなくなるので、ある意味ホワイトスペースと言えて、有利にイノベーションを進められるメリットもあるのはおさえておくべきポイントです。

 

第2部「ジョブ理論の奥行きと可能性」より

第2部では、実際にどのようにジョブを探すかを方法論として説くと共に、顧客がなにかを「解雇」し、そして他のなにかを「雇用」するストーリーにおける、感情的・社会的側面の読み取り方について説明を進めていきます。

 

自社の商品が雇用される、ということは他の何かを解雇している、というわけであり、その際に企業側が着目すべきは、顧客が新しい解決策に乗り換えようとする力よりも実は「変化に反対する力」の方が強い、という行動経済学的ポイントです。いわゆる損失回避の心情です。よって、企業側は顧客の不安を打ち消すことが大事になります。

 

この点への対処法としては、ストーリーボードを使い顧客のストーリーを描くこと、と触れています。が、そのストーリーボードの具体的なサンプル図示が無いのは、ちょっと残念…ただ、10ページ強に及ぶ、コストコマットレスを衝動買いしたウォーカーへのインタビュー会話は参考になります。時系列で顧客の感情をあぶり出し整理することが淡々と描かれます。

 

第3部「『片づけるべきジョブ』の組織」より

最後の第3部では、これまで述べてきたジョブ理論に基づき、ジョブを中心にプロセスを統合し、組織を最適化する企業のケースを説明しています。加えて、組織として立ち上がった後のマネジメントとしてデータ中心の分析・評価の色合いが強くなる傾向に警笛を鳴らし、最終章においては理論の限界についても触れられています。

 

第7章では、プロセス統合のケーススタディとして、メイヨー・クリニック、トヨタGMの車載情報通信サービス「オンスター」、amazonが取り上げられています。が、実際にどのようにプロセスが構築されたのか、どのような考えに基づき最適化がなされていったのか、については、筆者自身も「プロセスは顧客の目には見えない」「プロセスは手で触ることができない」と言ってしまっているスタンスからも分かる通り、言語化はきちんとなされていません。なので、この章から体系的に何かを学べたという満足感が小さいのは残念です。(ひょっとして、このあたりのトーンダウンが、去年読了するのを挫折した理由だったのかも?)

 

第9章の「ジョブを中心とした組織」においても、同様です。章名からして、ジョブへの注目がなされたことによりその企業は組織構築をどのように改善していったのか、について触れてくれるのかと思いきや、第2章と同様にケースごとのジョブの定義や発見方法に触れられるのが大半です。そこは正直期待はずれなのですが、結局、筆者は組織が大きくなると、

 

顧客やプロダクト、競争相手や投資家のほうにはるかに熱心に取り組み、一方でジョブへの集中心をどんどんなくしていく。しかも、統制を強め、効率性を追求しようとする(中略)顧客の片づけるべきジョブを効果的に解決するよりも、内部プロセスを効率よく実行する

 

ことにとらわれはじめる、と注意をうながしており、組織がどうあるべきかを説くのではなく、大きくなってもジョブの解決に、経営陣もマネージャーも現場スタッフも注力しようね、というのが主旨なのだと感じました。

 

明日からのToDo

 

「STARTUP」を読んでも同じようなことを感じましたが、ジョブ理論でも共通して、顧客がどのような感情的または社会的側面から商品を選び購入に至るのか、から開発なりイノベーションを始めましょうというのは、組織が大きくなるに連れ、実際の企業活動から乖離しがちなことと感じました。

同様の主旨の書籍を同時期に立て続けに読んだのは、偶然ではないと思います。おそらく、自分自身がメガベンチャーにいて、消費者が真に欲したいものや解決したいものへリンクできるプロダクトの開発に見を投じることのできなかった後悔から、この2作品を読みたくなったのだと思います。

 

その後悔を晴らすべく、新しい会社では消費者の片づけるべきジョブを解決できる、そんなサービスを作り、社会に貢献していきたいと改めて意を決した、そんな書籍でした。